〈物理〉 新幹線の人身事故 停止距離から当時の速さと時間を割り出す

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2023年6月8日夜に山陽新幹線で人身事故が発生しました。この影響で山陽新幹線は一部区間で5時間あまり運転を見合わせました。運転見合わせが5時間も及んだことについて、事故発生現場から新幹線の停止位置まで約4.5kmも離れていたことが理由として挙げられています。

多くの人は「ブレーキをかけていても、4.5kmも止まれないんだ」と思うはずです。果たしてこの停止距離は妥当なのか、物理的な観点から検証していこうと思います。

検証の前提

・停止距離が4.5kmであった
・ブレーキをかけ始めてから停止するまで等加速度直線運動をした
・空走距離の計算には一般的な反応速度0.75秒を用いる
・新幹線の加速度について非常停止時は-0.72m/s2である
・停止距離を空走距離と制動距離に分けて考える
・平坦な線路上を走行していた
・空気抵抗や線路との摩擦等は考えない
・接触による新幹線の減速は無かった

停止距離とは

停止距離は、空走距離制動距離に分けられます。
空走距離は事故が発生してから、運転士がブレーキをかけ始めるまでに進んだ距離を表します。
制動距離は運転士がブレーキをかけ始めてから完全に停止するまでに進んだ距離を表します。

高校物理の公式の復習

等加速度直線運動の公式
x:制動距離(4.5kmから空走距離を除いて使う)
v:速度(停止した時点で考えるので、今回は「0」を代入)
a:加速度(非常停止時の-0.72m/s2を用いる)
v0:初速度(事故当時の新幹線の速度)
t:時間 (ブレーキをかけ始めてから停止するまでに要した時間)
① v=v0+at
② x=v0t+at2/2
③ v2-v02=2ax

ではここから実際に検証を行っていきましょう。

一般的に、人間が何か危険等を感じてからブレーキをかけ始めるまでの時間は0.75秒であることが知られています。つまり、初速度をv0[m/秒]とすると空走距離は0.75v0[m]と計算できます。
よって、制動距離xは停止距離(4.5km=4500m)から空走距離(0.75v0[m])を除いた4500-0.75v0[m]となります。
まず③の式からv0を求めていきます。
v2-v02=2axより、
02-v02=2×(-0.72)×(4500-0.75v0)
この式について整理すると、
v02+1.08v0-6480=0 となります。2次方程式を解くと、v0は正の値なので、
v0≒81[m/s] と求まります。
これはつまり、時速で表すと時速291.6kmとなります。山陽新幹線の最高速度が300km/hであることを考慮すると、事故当時は最高速度にかなり近い速度で走行していたことが分かります。

次に時間tについて求めていきます。
v0=81[m/s]が分かったため、公式の①に当てはめると、
0=81-0.72t となり、tを求めると、t=112.5[秒]と求めることができます。
この値に一般的な反応速度0.75[秒]を加えると、113[秒]となります。つまり、この新幹線は事故発生から停止まで113秒も要したことになります。時間にして約2分です。このように、新幹線はすぐには止まれないのです。また、全体の2分のうち、反応速度はごくわずかであることが分かると思います。

このように、今回の人身事故で新幹線が4.5kmも離れたところで停止したということは物理的に考えても妥当なことなのです。皆さんもこの記事で新幹線がいかに高速で走っており、すぐには停止できないか、実感したことと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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