さて、文化史解説の第3弾です。だいぶ時間が空いてしまいましたね。今回は、インドの文化です。ここに焦点をあてているものってめったにないので、じっくり見て役立ててください。
インドの歴史概要
少しだけ、インド史を見ていきましょう。インドでは、インダス文明が開化しました。その後、アーリヤ人が進出したことで、インダス川流域からガンジス川流域に生活範囲が広がります。その後は、マガダ国やコーサラ国が台頭してきましたが、統一王朝が作られることはありませんでした。
ところが紀元前4世紀に”あの男”が攻めてきます。『ヘレニズム文化編』で説明しましたよね? アレクサンドロス大王です。結果的に征服されずに帰っていきましたが、西方の脅威をインド人が知ったのは事実です。そこでマガダ国のチャンドラグプタが統一王朝を開きます。これが、マウリヤ朝です。それでは、マウリヤ朝の文化を見ていきますが、その前に古代インドで生まれた宗教についてまとめましょう。
古代インドで生まれた宗教
インドでは、いくつもの宗教が生まれました。一つずつ見ていきましょう。
バラモン教
最初に登場したのが、バラモン教です。これは、アーリヤ人の原始宗教をもとに成立しており、バラモンを中心とした宗教です。
バラモンって聞いてちゃんと分かりますか? ヴァルナ制の話ですね。一応復習。
バラモン(司祭)
クシャトリヤ(武人)
ヴァイシャ(農工商人)
シュードラ(隷属民)
不可触民 ・・・ 4~7世紀頃の成立
バラモン教は明確な体系を持っておらず、『ヴェーダ』を聖典としていました。『ヴェーダ』の中では、最初に作られた『リグ=ヴェーダ』が一番有名ですかね!
バラモン中心の宗教ってことは、祭祀万能主義ってことですよね。そうすると、他の層の人たちからすると納得できないわけですよ。よって、この後バラモン教を批判する勢力が登場したり、バラモン教内部で革新しようという動きが出てきます。
ウパニシャッド哲学
内部革新の代表がウパニシャッド哲学です。これは、梵我一如ということで知られていますね。どういう意味かというと、宇宙の本体であるブラフマンと人間存在の本質であるアートマンが本来一つのものですよって意味です。これ難しいよね… 哲学ってこうなのよ。まあ、なんとなくでいいので覚えておいてください。
これはバラモン教の内部革新の例ですが、一方でバラモン教に対して批判する動きも出てきます。誰が批判するかって? バラモンに対抗するってことは、クシャトリヤとヴァイシャです。シュードラは正直、宗教なんかにすがっている暇はありません。バラモンへの対抗は、武人層と農工商人です。
仏教
ってことで、その一つが仏教です。仏教の開祖はもちろんガウタマ=シッダールタですね! ちなみに仏教はマガダ国で誕生しました。
仏教は、バラモンの権威を否定したことが前提です。あとは中道の実践によって四苦からの解脱を目標とするっていうことですが、これの意味分かります? 簡単に言うと「現世は苦しいけど極端なことせずに、正しいことをして解放されましょうねー」っていう感じかな?
大事なことは、仏教が支持された層です。当然のことながら、クシャトリヤとヴァイシャですね。
ところが紀元前後に、仏教で一つトラブルが出てきます。旧来の仏教って、厳しい修行を行って自力の救済を求めるものだったんですね。そうすると、もっと簡単にしようぜって言ってくる人が出てきます。それがナーガールジュナです。この人は『中論』っていう本を書いて、新たに大乗仏教を開きました。大乗仏教の特徴といえば、菩薩信仰ですね。これに対して今までの仏教を上座部仏教(あるいは小乗仏教)って言います。
この2つの仏教は分裂していき、東南アジアの大陸部には上座部仏教が、東南アジアの島嶼部には大乗仏教が広がっていきます。
ジャイナ教
もう一つのバラモン教を批判する宗教がジャイナ教です。開祖は、ヴァルダマーナという人です。
当然、バラモンの権威は否定しました。しかしこれのキーワードは、”極端な不殺生主義”ですね。修行者は虫を吸い込んだりしないように、口を布で覆っています。また、虫を踏まないように裸足で歩きます。まあ正直、信者でない人からすると”極端”に見えてしまいますね。そして、とにかく厳しく戒律を守ります。
さて、ここで考えてみましょう。
ジャイナ教を主に信じたのは、どの層でしょう。すべて選びなさい。
A. バラモン B. クシャトリヤ C. ヴァイシャ D. シュードラ
TMT出版オリジナル問題
この答え分かりますか? 正解はCのヴァイシャです。まず、AとDが違う話は先ほどしました。じゃあクシャトリヤはどうかって話ですが、よく考えてください。クシャトリヤって武人ですよ。武人に「人を殺してはいけませんよ~」って言ったら仕事にならないでしょ(笑) ってことで広まっていくのはヴァイシャ層なんです。中でも商人ですね。農家の人って、収穫時に植物殺しちゃうでしょ。結果的に殺さずに生活できるのって商人くらいなのよ。
ヒンドゥー教
続いてはヒンドゥー教です。これはバラモン教を批判するってよりは、”バラモン教の発展形”です。大体紀元前後に成立したと思ってください。逆に言うと、これまでの4宗教はすべて紀元前に成立してます。
ヒンドゥー教は、バラモン教系列なので、ヴァルナ制を否定しません。そしてバラモン教と同様に、明確な体系を持っておらず、聖典は『ヴェーダ』『ラーマーヤナ』『マヌ法典』などいろいろあります。神様もいっぱいいます。中でも人気なのはシヴァ神やヴィシュヌ神なんですけどね~
ちなみに現代のインド人の多くはヒンドゥー教を信仰しています。世界三大宗教の1つである仏教が誕生したのはインドなのに、思ったよりも仏教信者は少ないんですね。
インドの宗教まとめ
~バラモン教系列~
バラモン教・・・バラモン中心の宗教
ウパニシャッド哲学・・・梵我一如
ヒンドゥー教・・・現在のメイン宗教
~バラモン教を批判するもの~
上座部仏教・・・ガウタマ=シッダールタが開祖
大乗仏教・・・ナーガールジュナが開祖
ジャイナ教・・・ヴァルダマーナが開祖
さあ、やっと終わった。それでは文化史を見ていきましょう。
マウリヤ朝
というわけで、マウリヤ朝を見ていきましょう。チャンドラグプタが作ったこの王朝は、アショーカ王の時代に全盛期を迎えます。「あ、しょーか(そーか)って感じですね!」
マウリヤ朝時代には、仏教が盛んになります。これはアショーカ王が保護したためです。この人ね、最初は征服活動をしてたんだけど、カリンガ国を征服した際にあまりに人を殺しすぎて、以来仏教に帰依するようになります。
アショーカ王の仏教事業
第3回仏典結集、サーンチーのストゥーパ、スリランカ布教、磨崖碑・石柱碑
まあ、このくらい知っておけば大丈夫かな。マニアックな話をするなら、第3回仏典結集はパーリ語でやってます。ストゥーパってやつは、ブッダの骨を入れておくやつです。スリランカ布教については、王子マヒンダを派遣しています。
クシャーナ朝
マウリヤ朝滅亡後に建国されたのがクシャーナ朝です。まずはポイント。
クシャーナ朝時代には、ギリシア風のガンダーラ美術が栄えた!
お手持ちの図説等をご覧ください。ガンダーラ美術の彫刻って、ギリシアっぽいのよ。これが一番のポイントです。ギリシアの彫刻って覚えてますか? 神様でも人間っぽいやつです。
忘れてる人はこちら
グプタ朝
次に登場するのがグプタ朝です。
サンスクリット文学についてまとめましょう。サンスクリット文学って、サンスクリット語で書かれた文学って意味ね。
『マハーバーラタ』
『ラーマーヤナ』
『シャクンタラー』(カーリダーサ)
以上3つを押さえましょう。
また、『マヌ法典』の編纂とヒンドゥー教の広まりもグプタ朝期です。
さらに、数学も発達しました。
インドの数学は、十進法とゼロの概念
ちゃんと分かりますか? 現代でも使っている十進法はインド発祥です。ゼロの概念もインドなんですね。確かにゼロって特殊な数ですもんね!
あとはグプタ様式の建築があります。アジャンターとエローラの石窟寺院ですね。
ヴァルダナ朝
インド最後の王朝がヴァルダナ朝です。ところがこの王朝って非常に弱体だったんですよ。ってことで一代で滅びてしまいます。
この時代には、様々な宗教が保護されます。中でも仏教については、ナーランダー僧院が開設されて、中国から来た玄奘や義浄がそこで学びます。
ヴァルダナ朝の滅亡後は、まず仏教やジャイナ教を攻撃するバクティ運動が盛んになったことで、仏教やジャイナ教は衰退していきます。また、各地でラージプートと呼ばれるヒンドゥー諸勢力の抗争が続いていきました。簡単に言えば分裂状態ですね。この分裂状態が解消されて、再び統一されるのがイスラーム勢力が入ってきたときですね。
中国から来た僧
中国からインドに3名の僧が旅をします。それぞれの経路・時代・著書は最重要事項になるので、必ず覚えてください。
法顕(行:陸、帰:海)・・・グプタ朝時代、『仏国記』
玄奘(行:陸、帰:陸)・・・ヴァルダナ朝時代、『大唐西域記』
義浄(行:海、帰:海)・・・ラージプート時代、『南海寄帰内法伝』
では補足説明。玄奘については、西遊記のモデルになります。「西に遊びにいく」わけですから、当然陸路ですね。義浄については「さんずい」が名前についているので、海路だと覚えましょう。海で行き来したから、『南海寄帰内法伝』が書けるんですね。このあたりの知識を組み合わせれば、なんとか覚えられると思うので頑張ってください。
まとめ
インドの文化に焦点を当てている参考書ってなかなかないので、ここでしっかり覚えてくださいね。インドの文化はそこまで覚えにくくはないと思います。宗教がいろいろあるので、そこだけグチャグチャにならないように!
次回は東南アジアの文化をやろうと思ってます。ではまた!
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