〈政治〉政党解説2025 NHK党

2025参議院選挙特集

参議院選挙間近ということで、全政党の解説を行なっています。今回はNHK党です。

NHK党とは

 NHK党は、「NHKから国民を守る党」として、立花孝志を中心に、2019年に国政政党デビューをした政党です。…という説明だと、多分、NHK党関係者から怒られますね(笑)。国政政党になって以来”たった6年”の政党ですが、怒涛の歴史がありますので、今日は深く解説していきたいと思います。

 少なくとも、①NHKをぶっ壊すことを目標にしている団体、②現在は国政政党ではなく政治団体である、という2点は理解の上、解説記事をご覧ください!

解説動画も作成しました。

NHKから国民を守る党

立花孝志、始動…

 全ての始まりは2005年4月です。NHKの不正経理を週刊文春で内部告発したNHK職員がいました。それが立花孝志という人物です。NHK職員でありながら、NHKと戦うことを選択し、NHKを退職してしまいました。

 時が過ぎて2013年、政治団体「NHK受信料不払い党」を設立します。これがすぐに「NHKから国民を守る党」になったのです。

 その後、地方選挙に立花孝志本人が相次いで出馬するようになり、ついに2015年には船橋市議会議員選挙で当選しました。2016年には東京都知事選挙に出馬し、政見放送で「NHKをぶっ壊す」を披露したところ、SNSで話題となりました。さらに2017年には葛飾区議会議員選挙で当選します。

 立花氏本人が選挙を繰り返す一方で、なんと他の候補者もどんどん地方選挙に当選させていきます。「NHKから国民を守る」というワンイシューでしたが、30人近い当選者を出したのです。立花孝志は「選挙戦略のスペシャリスト」です。選挙の仕組み・ルールを完璧に把握して、戦略で勝負しました。地方選挙においても、「どの選挙区なら受かるか」「誰をターゲットに投票してもらうか」など、綿密な戦略が功を奏します。

国政政党へ

 そして2019年7月運命の参議院議員選挙がやってきました。ここで国政政党の要件を満たすため、選挙戦略のスペシャリストが策を講じます。

 そもそも「国政政党」になるための条件ってご存知ですか? 基本的には次の2パターンです。①国会議員5人以上の在籍、②選挙における得票率2%以上の獲得、です。そして、政党助成金をもらうには、②の条件+国会議員1人以上の当選が必要でした。

 国会の選挙において、もっとも当選しやすいのは、参議院の比例代表です。全国どこからでも投票ができて、しかも50人受かることから、大体得票率2%程度で当選できます。極論を言えば衆議院議員の小選挙区では1人しか受からないことから50%の得票(もちろん複数人出ていることから現実的には当選ラインは下がりますけどね!)が必要であり、やはり新興勢力にはなかなか厳しいところ。衆議院議員選挙の比例代表においても、議席の獲得には5%程度の得票が必要です。

 立花氏は、東京都知事選挙などで名前を広げ、全国比例で勝負をかけました。そして「勝てもしない」選挙区に37人も擁立しました。そしてインターネットを最大限駆使した選挙運動を展開します。YouTubeでの発信力は相当なものでした。

 結果は、全国比例で立花孝志党首が当選します。しかし、得票率は1.97%になってしまい、ギリギリ政党要件を満たされないと思われました。ところがですね、勝てもしない選挙区で37人を擁立し、こちらの得票率が3.02%だったことで、なんと国政政党要件を満たしてしまったんですね。全国比例で国会議員を獲得し、選挙区で2%以上の得票を取るという、綿密に練られた戦略が、NHK党を全国政党に押し上げたのです。

有言実行「NHKをぶっ壊す」

 NHK党は国政政党要件を満たしたことで、億単位の政党助成金が入ってくるようになります。この政党助成金が、さらにNHK党の活動の幅を増やしていくことになりました。

 まずはNHK党として無所属議員への入党を呼び掛けました。これに応じたのは日本維新の会を除名された丸山穂高衆議院議員です。実際に丸山氏は入党し、副党首となりました。

 また本格的にNHKをぶっ壊す活動をしていきます。党としての最終目標は「NHKのスクランブル化」です。要は、NHK受信料は全国民の義務になっているが、それを「見たい人だけ支払って見る」「水道・ガス・電気のように滞納すればNHKの受信を止める」という仕組みにするということですね。党の方針としてはこれしかなく、他の政策については国会議員の自由となっていました。そのため、憲法改正についても「NHKのスクランブル化に応じてくれたら自民党の改憲に賛成する」という、なんともユルユルな方針でした。

 ちなみにNHK党による「NHKをぶっ壊す」方法についても解説しておきます。「NHKと受信契約を締結した上で不払いする」ことを党として推奨したのです。意味が分からないと思うので、詳しく説明しましょうか。NHKとの「受信契約」に関しては法律で義務付けられています。ただし「受信料の支払い」については法律で定められていません。だからこそ「契約して不払い」による、NHKの収益減少を狙いました。ちなみに不払いは「法律違反」ではありませんが「契約違反」にはなってしまうため、仮にNHKから訴えられたら当然裁判では勝てません。そこでNHK党は裁判の代行や裁判で負けた場合の受信料の肩代わりするサービスを始めました。国政政党となって政党助成金が億単位で入ってくることから、そんなことまでできてしまったのです。

 また、NHKにも数々の”嫌がらせ”をして、集金人を廃止させることにも成功しました。さらには政党としてコールセンターまで設置しています。結果的には、2019年以来、6年連続で大幅な収益ダウンとなっています。これに関しては、賛否はあるでしょうが、NHK党の影響が大きいことは否定できませんね。

次なる奇策

 2019年7月に当選した立花孝志は、10月の補欠選挙に立候補しました。このため、参議院議員を辞職することになり、浜田聡が繰上げ当選することができました。当選してすぐ辞めるのも意味が分からないですよね(笑)。

 立花氏の持論は「政治と選挙は別」ということにあります。国会に必要なのは「政治のプロ」だが、立花氏は「選挙のプロ」であり、国会にも「選挙のプロ」が多い、とのことです。この人が、参議院議員になって以来、質問主意書の提出などで1人ながら存在感を発揮していくことになりました。

 2020年7月には、東京都知事選挙に「ホリエモン新党」から立花氏含む3名が立候補しました。まず意味がわからないのは、1人しか受からない選挙に同じ党から3人も候補者を出すことですよね(笑)。これは、東京都知事選挙の注目度の高さが理由だそうです。供託金300万円が必要ですが、東京中の掲示板にポスターが貼れて、政見放送にも出られて、全家庭に選挙公報が配られるというのは、300万円分をこえる価値があるということらしいです。まあ言われて見れば、この放送は「確かに」とはなりますよね。ちなみに、これ以降、立花党首はしばらく選挙に立候補しませんでした。NHKからの不払受信料の請求に対して肩代わりしていることが有権者の買収にあたる可能性があることが主な理由としていました。

 2021年10月には、衆議院議員選挙が行われました。ここでは「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」という政党名でチャレンジしました。政党名から工夫してるんですね。ここでは30人の候補者を擁立しました。はっきり言って勝負になりません。それでも候補者を立てたのは「お金目的」です。そう聞くと有権者からは「お金目的なのか?」と批判されそうですが、NHK党は「そうですよ」と言わんばかりの選挙戦を展開します。政党助成金は、「1票あたり約250円」が政党に交付されるため、「投票権を無駄にするくらいならうちに投票して、国民をNHKから守る資金にさせてくれ」と堂々とお願いしまわります。そして、選挙運動をほとんどせずとも、比例代表では1.39%の票を獲得しました。これで6年分の供託金として相当な金額をゲットします。合法的な「選挙ビジネス」を展開していました。

 2021年頃からは、諸派党構想を展開していきます。全国の「諸派」と呼ばれる政治団体を集めることにし、黒川敦彦率いる「つばさの党」はここに乗っかりました。

ガーシー擁立

 2022年7月には、国政政党になって以来の参議院選挙を迎えます。ここで立花党首が立候補を打診したのが、YouTuberガーシーです。

 当時は詐欺行為を告発されてしまったことで、ドバイに逃亡し、暴露系YouTuberとして話題をさらっていました。ここに立花孝志が着目し、直接ドバイまで口説きにいきます。

 「詐欺行為でドバイに逃亡した暴露系YouTuber」とだけ聞くと、当選するとも思えず「なぜ擁立した?」と思うでしょうが、そこは「選挙戦略のスペシャリスト」の出番です。使える手を最大限使い、なんとガーシー議員を誕生させてしまいました。まず面白いのは、一度も日本に戻ってくることなく当選しました。そして逮捕の恐れがあることから、国会は欠席することを表明したのです。

 約半年間欠席したのち、それが国会で問題視されます。懲罰委員会が開かれ「議場における陳謝」が命じられましたが、最終的には陳謝の場も欠席となりました。そして3月の懲罰委員会でついに除名となってしまいました。

 比例代表選挙で選出された議員が除名されると、同じ党から繰り上げとなります。繰り上がったのは、齊藤健一郎氏です。

政治家女子48党

 次なる立花孝志の戦略は「政治家女子48党」でした。時代は2023年4月、統一地方選挙が行われました。統一地方選挙に若い女性を大量に擁立したのです。地方選挙であれば「若い女性」というだけで受かる、という考えのもと、政党名を政治家女子48党に変えて、選挙に挑戦したのです。しかも「ガーシー騒動の責任をとる」という名目で党首を辞任し、次の党首に大津綾香を就任させました。

 ただしここで厄介な問題が起こりました。まあ簡単に言うと、党が2つに分裂してしまいました。きっかけは大津氏による政治資金パーティーが債権者に理解されず、取り付け騒ぎが起こってしまったためと、立花氏側は発表しています。

大津派:大津綾香・黒川敦彦
→党の代表権を持つ

立花派:立花孝志・浜田聡・齊藤健一郎
→党所属の国会議員がつく

 法律上の代表権は大津氏側にありましたが、立花派は大津綾香を除名処分にし、齊藤健一郎を代表に立てると発表しましたが、大津氏側はこれを無効とします。

 めちゃくちゃな状態で投票する有権者は残念ながらほとんどいません。政治家女子48党から立候補した人の多くは落選してしまいました。

 ここのドロドロの闘争の過程は省略しますが、最終的には裁判で大津氏側に党の所有権があるとされました。大津氏は、黒川敦彦の「つばさの党」とも決別し、党名を「みんなでつくる党」に変え新たなスタートを切って行きました。

 立花氏側は、政治団体「NHKから国民を守る党」を設立し、国政政党ではない状態から再スタートをすることになりました。党首は立花孝志、副党首は丸山穂高・斎藤健一郎、幹事長兼政策調査会長は浜田聡という体制になりました。

 「みんなでつくる党」にも便宜上所属していた浜田聡・齊藤健一郎両議員は、2024年の年明けのタイミングで党を離れたため、「みんなでつくる党」は政党助成金をもらう権利を失いました。さらに立花派の方から破産申し立てを受けてしまい、2024年3月に破産手続きが始まってしまいました。

大津派:大津綾香
→国政政党「みんなでつくる党」

立花派:立花孝志・浜田聡・齊藤健一郎・丸山穂高
→政治団体「NHKから国民を守る党」

政治団体「NHKから国民を守る党」

東京都知事選挙で大炎上

 政治団体NHKから国民を守る党は、2025年7月の参議院選挙での国政復帰を目指し、2年スパンでの計画を考えました。ここで着目したのは2024年7月の東京都知事選挙です。都知事選は日本で最も注目を受ける選挙ということで、圧倒的な存在感を放つため、奇策を用意しました。

 まずNHK党の候補者として19人、関連団体の候補者として5人、合計24人を擁立します。都知事選の出馬には供託金300万円が必要で、24人出せば7200万円かかります。それでも、東京都全域への政見放送・選挙公報・ポスター掲示板24枠分を考えれば、「安い」と考えて、構わず擁立したのです。

 ポスター掲示板には同じもの(「NHKに受信料を払う人は馬鹿だと思います」など)を24枠貼り、一部は一般国民に「販売」(正確には政党への寄付と引き換えに掲示権を与えた)しました。さらに政見放送は1人1回で6分与えられ、NHKでは2回放送するため、6分×24人×2回=288分=4時間48分、電波ジャックすることができるのです。まあCMを買うよりは破格の安さではありますが… また選挙公報においても、NHK党公認候補者全ての枠に「立花孝志」と大きく書いたことで、選挙公報内に「立花孝志」が大量出現しました。

 完全な選挙ジャックとなります。まあ相当物議を醸しましたが、違法ではないそうです。「選挙戦略のスペシャリスト」恐るべしですね。

兵庫県知事選挙の「二馬力」運動

 続いては兵庫県知事選挙です。兵庫県知事の斎藤元彦知事に対し、パワハラ報道・おねだり報道などを受けて、兵庫県内の世論は斎藤知事不支持が圧倒的に多く、全会一致で兵庫県議会から不信任決議案が可決されましたが、これに対してNHK党は「おかしい」と感じ、3年ぶりに立花孝志本人が立候補に動きました。

 兵庫県知事選挙では「斎藤元彦知事はマスコミにいじめられている」「斎藤知事は大したパワハラをしていない」「誰に入れろとは言わないが、立花孝志には投票しないでください」と、異例の選挙戦を展開していき、最終的には大逆転で斎藤元彦知事が再選しました。NHK党が選挙結果を左右するほどの力を持つようになったのです。

いざ参議院選挙へ

 そして、2025年7月、参議院選挙がやってきました。今回は「NHK党」として、全選挙区に候補者を立てて、比例代表に現職の浜田聡ら3名の医師・弁護士を擁立しています。立花党首本人は兵庫県選挙区から立候補し、斎藤知事を応援すると表明しています。

 NHK党の注目ポイントは、選挙区もしくは比例代表で2%得票が取れるのかです。全ての都道府県に候補者がいるため、各都道府県で2%の得票を集めれば、NHK党として国政政党に復帰することができ、党はそれを目標にしています。2019年の国政政党デビュー劇場を、再びやろうとしているようです。さあ、果たしてどうなるのか、注目ですね!

〜参議院情勢〜

現有議席:2
(改選1、非改選1)

 

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